空と風と翔ぶ龍~翔宇の中国武術日記②武術は基礎から

翔宇「武術は基礎が大事なんだ。何でもそうだけど…基礎が土台を作る。でも基礎ほどつまらなく退屈なことはない。そこをどう楽しく意欲的にやれるかが、カンフーを続けらるかどうかを決める。」

翔宇と出会った勝美は、やっと本当の武術の師匠に出会えた気がした
大学院は果てしなく忙しかったが、それでもできる限り稽古をともにした

さらにその後、翔宇と勝美は音楽部でアジア音楽を研究している風音と出会った

風音との出会いがあってからは稽古は3人でやるようになった
翔宇と勝美は彼の琴に合わせて朝に太極拳をすることが日課になった

翔宇はそのためにノースバンクーバーから

バンクーバーの大学近くにアパートをシェアし始めた

まだキャピラノカレッジの授業は残っていたし、

バンクーバーの中心ともなると家賃は高くなるが、

彼は門弟何人かとシェアした

風音のことだけでなく、アルバータから
バンクーバーにカンフースクールをとうとう移そうという
計画があったから、なるべくバンクーバーの中心にいる必要があった

風音と翔宇はさすがに本場で鍛えてきたせいもあるし、武当派をやってきたこともあって
音楽を用いての修練には慣れているようだった

風音のゆっくりとした琴に合わせて
これまたこれ以上のろく動けるかというほどゆっくりとした太極拳。

でも翔宇がやるとなぜか一つの芸術のようで
その美しさに引き込まれるのである

翔宇は世界を相手にあらゆる武術やダンスの大会で優勝を総なめにしてきたのに
激しい情炎のような演武(炎舞)を見せびらかすこともなく、

ただひたすら太極拳を、亀のようにゆっくりとするだけだった

勝美はもどかしかった
「こいつはほんとはすげえんだぜ。その凄さを見せつけてこっちがギャフンと言わせてやりたいよ」

でも翔宇から言わせれば太極拳には武術の基礎のほぼすべてが詰まっているという

「太極をやらずしていかなる武術もなしさ。普通人はアクション映画なんかを見て、
ああいうカッコいいことをいきなりしたいと言う。でも俺は站椿からはじめさせる。
そして太極の一つ一つの動きを丁寧に教える。どこに重心を置いていくかに注意を払えという。
太極拳が基本を作り土台を作る」

「でも男たちが見たいのはお前のスゴ技や絶技だと思うが」

「見せるためにやるのは僕にとっては一部でしかない。

基礎を忘れた者に武術は訪れない。一時的に強くなっても後から体をこわす。

太極をやっていれば体をこわすことはないし、むしろ永続的に武術ができる。」

 

後からそのことを彗君や阿羽にも言った。

でも同じ答えが返ってきた。

「基礎を省くものに武術は降りてこないのさ」

「武術が降りてこないって、なんだか神降臨!みたいな言い方だな」

「そうさ。

基本を省くことはできない。
でも基本がつまらないと思うと、そこで武術への道はもろくも終わってしまう」

「基礎が楽しい、平凡で単純な動きが楽しい、と思えれば勝ちだよね」

だから逸らず、これが技かと思うほどゆっくりとした動きをまず徹底してやる。
それが永久に武術家の基本だ。太極拳にはそれが凝縮されてる。

実際には太極拳だって武術の1つなのだが、動きが遅いだけでそう見えない。
でも確実に体のポテンシャルは上がっていく。

翔宇は天才だ。何でもできる。
でもそれを支えているのは基礎となるムーブの
永遠の努力だ」

でも周りの達人たちが揃いもそろって
「武術は基礎だ」というのを聞くと
子供の頃から基礎練が大嫌いだった勝美はいい気分ではない。

「俺は基礎が嫌いだ。同じことを繰り返すだけの単調な孤独な作業。
俺はもっとクリエイティブなことがしたいと思って基礎をやれと言われると逆に逃げたくなる」

「まあお前はデザインにしたって、描線は練習しないし、スケッチもデッサンの授業もサボってばかりだからな。あれじゃマジで卒業できなくなるよ。」

翔宇が言った。

「基礎が嫌いなら基礎に芸術性を持たせればいい」
「何も基礎を練習するのに方法は一つということはない。

站椿はそもそも動かないんだから単調極まりないのはどうにもしようがないが、
例えば基礎の塊みたいな24式の太極をやっている時、
手や足や身体全体の動き一つ一つに徹底的にこだわれ。
それをただ基礎としてぼやっとやるんじゃなく、
動き一つをアートだと思って極めつくそうとしてみろよ。

あまりに基礎が単調なら音楽をうまく使えばいい。
俺たちは音律術をやっているんだから当然琴の音に眠くなるのは仕方ない。
だったら好きな曲でやればいい。
曲は何でもいいさ、お前が24式をするのに気持ちがいいんだったらな。
身体が気持ちがいいと思っていないのに無理して続けるのは修業ではない。
身体が喜ぶことをしろ。
身体が嫌がるなら喜んでできるよう工夫するのも修業の一つだ」

「站椿をする前に目の前にアンパンをぶら下げておくんだな。
つまり、これが終わったら即行で大学に戻って
絶対ナッツ入りの超デカクリーム付きキャラメルマキアートを飲むとか、決めるのさ。
俗っぽいやり方だけど、站椿の段階でカンフーが嫌いになられちゃ、いつまでたっても
誰もやらなくなっちまう」

 

 

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