陳情令の終焉、陳情令の普遍性

数年前から中国ドラマとしては異例の話題性と人気を誇ってきた陳情令でしたが、
とうとう人気も下火というか終わったようです

私はこの作品に出会うことで、もう一度中国武術をやろうという気力と情熱を復活できました
さらに、ツイッターアカウントを始めたのも陳情令について書いてステイホームの気分転換にしようと
思ったからで、それがフォロワーもフォローなしの一庶民のアカウントで、
想像を超える驚異の100万アクセスになったことも
陳情令のおかげです

だから私にとって陳情令は、とても大きな意味のある作品であり、
何度も、正面きっての批判も含めて記事を書いてきました

一時はBTSなみになるのではという海外の熱烈なファンもいましたし、とことんまでグッズも出ていました。そしてその話題性の元として、原作がBLであり、腐女子にうけていて、オタク文化の一部として創作されたものだった、それをテレビ版では友情物語として描き切っています。

そんなことは全く知らず、ただいつものように新作が出れば見るので見たのですが、これがあまりにも
面白くて面白くて、寝ずに朝を迎えるまで見ていることも度々でした。そして主人公の肖戦・王一博の魅力とカッコよさ、映像の美しさ、阿澄への愛情など、その他にもすべての登場人物の俳優が光っており、個性があり、大いにインスピレーションをもらいました

特に女性の感性に訴える武侠ものとしてはいろいろな要素がまじりつつ宮廷は一切関係ないという
珍しいタイプのもので、腐女子ならず日本でも異例といえるほど多くの中国ドラマファンの心をつかみました

その人気は本国とは規模こそ違うけれど相当なもので、本当に熱気にあふれていました

私も陳情令に恋した人間として、武術を開設するのにドラマを使うよう心掛けている私は、
これは女子に最適の教科書になると、陳情令を穴があくほど見続けてきました

確かに今でも、あれもこれも、道教的仙術師のありさまを説明するには良い題材です
ちょっと説明しますと、中華圏の文化の中にはあらゆる側面に道教の影響があります
それは日本の神道のようなもので、生活にとけこみ、皆が当たり前に知り、皆が「信者」ではないけど
「ここにいる神様」「聖なるもの」として大事にしているものです

ただ、日本の神道よりもはるかに、文化面で実践的かつ細やかに人生を生きるすべを伝えてきたのも
道教の特徴です。道教は宗教というより、今でいうライフスタイルハック。それも、そんじょそこらの場当たり的知識ではなく、いかによく生きていくかを解説した「叡智」の塊と言えます。

道観といういわばお寺のようなところでお祈りする対象ではありますが、
神様の種類も、道教の始まりと言われる老子を崇めているわけではありません
観音様も、道教の神様の一人です

道教は寛容で、仏教や儒教の教えも大いに取り入れています
そのように、何か唯一の存在を絶対視して信仰することではなく、
神聖なものながら、同時にとても実践的な
ライフスタイルすべてにわたる知恵・叡智として浸透しきっています

その道教の影響を受けた文化は沢山あり、食事から日本の茶道まであらゆるものに関係してきますが、
多くの、というかほぼすべての中国武術にも浸透しています
八卦掌の八卦などが分かりやすい例です
武当山の武当派も、古代から大きなカンフーの流派であり、
武当山は世界遺産になり、金庸作品には必ず出てくる中国武術3代名門の一つと言われています
道教の教えを土台として、道教をそのまま「武術」という形に昇華させたもの、それが
武術版武当派なのです

だから、あらゆる意味で武当派はユニークであり、独特の武術世界を持っています
それについては、のちのち書いていきたいと思います

ところで、この陳情令も、多分に道教の影響を受けています
最初から最後まで、道士・あるいは道教の影響を受けた仙師の世界が描かれており
それは、必ずしもラブ史劇に慣れ切ってしまった人にとっては
やさしく甘いものではありません
仙師の世界は修業も厳しく、独特の才能がなければ正直伸びません
そしてなぜ仙師が武術と関係があるかというと、
仙術ができるということはイコール、中国武術にたけているということでもあるからです
中国武術の根幹は「氣をいかに使うか、氣をいかに保持するか」ですから、
ドラゴンボールの悟空も、氣が強いから強いのであって、そこらへんは鳥山明先生は
中国武術好きで、徹底的に勉強されたそうですね

ただ単に筋力腕力を鍛えている格闘技的な世界とは一線をひく
仙術師たちの武術の世界。
これは中華圏文化の一つの最も大きな個性であり芸術の域に達しています
だからこそ世界的にもカンフーが人気を持っているわけですが
世界で見られる多くの作品は、やはり香港アクション映画がほとんどで
陳情令のように、本当に仙師というものが持っていた文化、
武術を含めた総合的な文化・生活・厳しい規則・修業・武術・食事法・養生法・仙術・方術などは
細かく描かれていません

しかし、陳情令はその点をかなり細かく、繊細に、細やかに、詩的に、美しく

つまり女性でも見られるよう楽しめるように描いていますので、
それが結果としてアジア全土における人気につながったのだと思います

そして何より見ていて面白いエンターテインメントでもあり
物語としては、はっきり言えば笑傲江湖に似てますけどwww、
それでも陳情令独自の世界がありながら、それは
中華圏独自の仙師、つまり道術武術を使いこなす人々の文化そのものを
ありありと描いているのです

架空のストーリーなので全てとは言えませんが、
それでも、道教的な文化の中での仙師(先にも言ったようにじつは武術家)の
古代での生活がどうであったのか、を理解していくにはとてもよいきっかけになる作品です

あらゆる武術が道教的な文化思想方法を取り入れて要るにもかかわらず
このドラマではそれが自然に学べるのはなぜでしょうか?

これは、やはり制作人がこの作品にほれ込み
徹底して細やかに、一瞬のすきもないくらい美しく仙師たちの生きざまを描こうという
気概があったからだと思います

昨今の中国ドラマの進化の過程も観ることができるでしょう

しかし、残念ながら陳情令は日本では一時的に大きな話題をさらったものの、
長くそしてムーブメントになるほどの人気にはなりませんでした

それには以下に理由があると思います

1.最後まで、地上波およびBSで無料放送しなかった

2.期待されていたアニメが、日本人の感性に響かなかった内容であるとともに、
もともと最初が分かりにくい物語であるがゆえに、最初で挫折してしまった人がおおかった
3.アニメがこけてしまったので、原作も話題にならなかった

4.結果として残ったのは原作のBL作品を溺愛するやおいたちのファンのみ。
あるいは作品よりも、シャオジャン(肖戦)とワン・イーボー(王一博)の人気が
膨らみ続け、作品は忘れられていく。
この2人についてはヒートアップしすぎというくらいに
人気が急上昇し、もはや話題はこの2人が次何をするか?とか映像をファン同士で交換しあうとか
いった、アイドルオタ世界の分野に放り込まれてしまった

5.なんだかんだやはり原作はBLで、様々な物議をかもしてきました。日本でもBL作品が解禁になっているものの
この作品の原作はちょっと…・正直きわどいです。私はちょっと見てとても読めませんでした。同時期に流行った 爽やかなLGBT系のドラマ、タイの2getherとは、かなり違うと言えます。だからこそ陳情令の方が本当はかなり人気が沸騰していたので、かつ圧倒的な演技力とカッコよさは世界一ともいえるほどの肖戦×王一博は、私は当然ananの表紙になるときが来ると思っていましたが、今か今かと思っていた時に、偶然ananの表紙に2getherがバーンと載っていたのを見たときには、あまりのショックに立ち直れませんでした。

正直、シャオジャンもワンイーボーも、日本でもっと知られていい若い名優です
もっと評価があってよかった。しかし、やはり原作のきわどさがそれを阻止してしまったのでしょうか
日本ではまだ過激なLGBT表現は受け容れられない

もちろん中国ではもっと厳しいですしだからこそこれがドラマ化できたこと自体が奇跡でした
そしてドラマではBLを完全排除し、よくある義兄弟レベルの愛情にとどまっています

それにもかかわらず、やはり原作のことを知っている人は違う捉え方をしますし、陳情令そのものが
伝えようとしている中華圏の文化や、中国の美しい自然や、仙師という伝統文化や、繊細な人間ドラマなど、
大事なことは脇に追いやられ、どこまでもそのこと(BLや押カプなど)が噂や話題になるという現象が日本でも
大いに生じており、焦点が違うじゃないかという悔しさが、いつもこの作品につきまとっていたのは
事実です。

そういう意味では、彼ら2人と制作人の商売としては成功したが、陳情令自体が伝える文化というものは
ほとんど人々の記録に残ることなく、よって中国ドラマの中でも突出したこの陳情令は、本来制作人が目指していた道教的な文化、中国的文化、道家武術の理解の広がりを見せなかった

広がったのは、ただひたすらに、シャオジャンとワンイーボーの名前だけであるという皮肉。
この作品の目指したことは、シャオジャンとワンイーボーをアイドルにすることではなかったと思います
制作人の身の入れようから、それは伝わってきます
明らかに制作人は、この作品を通じて、中華圏の文化と人間共通の悲しみと喜びを伝えようとしてきました
これはとても寂しいことです
けれども今でもこの作品は、世界的な人気を生んだということで
確かに成功しましたし、その芸術性の高さと2人そしてその仲間の迫真の演技によって
どこまでも人々に印象と感動を与えたのは事実です
例えそれが日々薄まっていくにせよ、陳情令は中国ドラマの世界的な流布においては
一つのティッピングポイントになったことは事実です

ドラマは、今やネット配信でいくらでも見られますが
今までの色々なドラマの流行り廃りを観察していると
やはり、NHK,民法やBSで無料放送することは絶対的に強い

正直、それなくしてただでさえ理解が難しい道教的な文化のドラマが
広く日本で流行り続けるということはできないでしょう
ネット配信うんぬんでは、まだ足りないのです

いつか陳情令がBSで何度も無料放送される時を待っています
その時、第二次ブームが来るでしょう

そして、私は人気が衰えていこうとなんだろうと
この作品が、道家武術仙師の繊細な生き様を頭でなく
5感、6感で理解するのにやはり

もっとも適していると結論しました
だから、今後はワークショップやレッスン時には、
陳情令の視聴はオススメではなく、課題の一つにすることにしました

文学的歴史的抒情的ドラマ性からすれば、もちろん金庸作品や古龍などの方が
ずっと上級です。しかし改めて彼らの作品をつぶさに見て確認してみると、
カンフー初心者の若い方々が中国武術をやろうという時に
いきなり金庸や古龍では、圧倒的過ぎて盛り込みすぎて、逆に重くなってしまう

「まんが歴史物語」で十分な人に、いきなり吉川英治を読めと言っているようなものです

その点、陳情令は伝えることは伝えられるけど
若い世代で流行ったコンテンツであり、手に取りやすく入りやすい世界です

シャオジャンもワンイーボーも、今後色々な場面で活躍していくでしょう
それぞれに違った才能を持っているので、花開くものが違い、どのように花開いていくのか
楽しみですが、その反面、陳情令の中で彼らが演じきったものの強さが消えることはないと思います

 

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